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松山地方裁判所西条支部 昭和30年(ワ)98号 判決

原告 山原林八 外二七名

被告 国

訴訟代理人 越智伝 外六名

主文

原告等の請求はいずれも棄却する。

訴訟費用は原告等の負担とする。

事実

原告等訴訟代理人は「被告は原告山川光五郎、馬淵勝男に対して各金一万円、原告窪内兼一、原友八に対して各金二万円、原告西村茂に対して金二万四千円、原告岡崎ツネ、山中シンに対して各金二万五千円、原告山原林八、安井重信、田鍋ハマ子に対して各金三万五千円、原告古谷義夫に対して金三万六千円、原告柚久保富士子に対し金三万八千円、原告神田政男に対して金四万一千七百円、原告山本武芳、同山口平八に対して各金四万五千円、原告森岡已代次に対して金五万二千四百円、原告鈴木頼市に対して金十五万円、原告中村輝夫に対して金十六万五千五百円、原告藤田雅助に対して金四十五万円、原告有限会社峰川製材所に対して金四十五万円、原告倉本茂八に対して金三十八万六千円、原告株式会社郡製材所に対して金百五万円、原告合田久治郎、合田峰雄曽我進、宮田政高、星川林材工業株式会社、株式会社岡崎製材所に対して金五十万円、及び各昭和三十年六月二十六日より完済に至るまで年五分の割合による金員を支払うべし。訴訟費用は被告の負担とする」との判決、並びに保証を条件とする仮執行の宣言を求め、その請求の原因として次のとおり陳述した。

被告国の建設に係る銅山川柳瀬堰堤は、(一)治水のため徳島県吉野川河水統制計画の一部として、銅山川柳瀬地点に於ける計画洪水量の調節をして、下流の洪水を防ぐこと、(二)灌漑用として愛媛県三島市及びその附近の既存田千二百四十六町歩の灌漑用水を補給し食糧の増産を計ること、(三)発電により毎時五千九百万キロワットの電力を発生させることを目的とし、特に下流の洪水防止をその主要目的とするもので、昭和二十九年九月当時は被告国が事実上管理していたが、同年十月一日以降河川法第六条但書により建設大臣の管理に名実ともに移つたものである。

然るに、柳瀬堰堤の事務担当者は、台風等の暴風雨の場合には、一般に水量の増加が予想されるのであるから、これを看視して柳瀬堰堤操作暫定要領に則り、周到なる注意を以て災害を防ぐよう危険のないことを確めてから水門を開放すべき業務上の注意義務があるにも拘らず、堰堤事務担当者は予め適宜の方法で予備放流をせず、その故意又は過失により、(一)昭和二十九年九月十二日から同月十四日に至る間の第十二号台風の際、前記柳瀬堰堤操作暫定要領第十二条及び第十四条第二号乃至第四号、並びに同要領第四条及び第十二条の別に定める事項との操作規定に基いて予備放流をすることなく、同月十四日午前二時頃まで柳瀬堰堤に雨量水を湛え同時刻に四箇所の放水扉を一挙に開放して多量の水を放流して台風の終了に至るまで継続した違反の操作のため、原告等は別紙目録記載の通り同日午前二時頃木材、アバ等の流失を、また同日午前三時三十分頃から同四時頃までの間家財商品その他の損失を受けたものである。(二)昭和二十九年九月二十五、六日の第十五号台風の際、前記の如く原告等は巨額の被害を蒙つているから災害を防ぐべき必要な範囲内で水門開放をして洪水の調節を計るべきであるのに拘らず柳瀬堰堤操作暫定要領第十四条第二号乃至第十四号の操作規定に違反して、一の雨量に対し二倍の雨量を二十五日の全日に亘つて解放し、原告倉本は別紙目録に記載の通り、同日午前十二時頃ダム内に存在するアバ一個を破壊流失せしめて損害を受けたものである。よつて原告等は監督庁たる建設省中国四国地方建設局に対し、同年十月二日附内容証明郵便を以て解決方を催告し、その頃右書面を到達せしめたが、同年十月六日附で調査中との返信があつたのみで、その後何等の連絡もない。以上の如く、近時同堰堤内の水量貯水が多いことも伴つて、原告等の前記損害は柳瀬堰堤業務担当者が、洪水調節の方法に関する故意又は過失により発生せしめたものであるから、原告等は民法第七百十五条に基きその使用者である被告国に対してその損害の賠償を求める。

仮りに、前記主張が理由ないとしても、同堰堤設置以前には、かゝる洪水の被害はなく、治水の目的で作つた堰堤が却つて水害を拡大する結果を生んだことに鑑み、且つ、洪水時に大量の水が一時に激流して原告等に損害を蒙らしめたのであるから、河川管理の特殊性から国家賠償法第二条に、道路河川その他公の営造物の設置又は管理に瑕疵があつたゝめ損害を与えたことに基き、同法条は無過失損害賠償を規定したものであつて故意又は過失及び違法性の有無に拘らず被告国はその損害の賠償をすべきであるから、これを求めるため本訴請求に及ぶと陳述した。

被告の答弁事実中原告の主張に反する事実を否認する。たゞ柳瀬堰堤操作暫定要領に定められた通り業務担当者が操作しても、なお本件損害が発生したものとすればそれは所謂不可抗力であると認めざるを得ないと述べた。

被告指定代理人は主文一、二項同旨の判決を求め、その答弁として次のとおり陳述した。

即ち、銅山川柳瀬堰堤が原告主張のとおり三個の目的を持つ多目的堰堤であつて、第十二号及び第十五号台風当時単に事実上被告が管理していたが、昭和二十九年十月一日以降名実ともに被告が管理していること、右二度に亘る台風時にその放流量を調節するため、同堰堤の水門を開閉したこと、及び原告等が主張する日時に建設省中国、四国建設局に主張のとおりの催告書を到達せしめたのに対し、その主張の如き趣旨の返信を以て回答したことは認めるが、爾余の原告等の主張事実はいずれも否認する。

即ち銅山川柳瀬堰堤は昭和十一年一月二十日以来愛媛県の責任で漸次灌漑発電のための分水工事が進められ、昭和二十四年六月十三日被告国が愛媛県から工事委託を受け前記三個の多目的堰堤として昭和二十九年三月三十一日完成し、これ等第三目的間には軽重の差異がない。その規模は堰堤高五十三、五米堰堤長百四十五米、湛水面積一、五二平方粁、常時満水面標高二百八十九、五米のコンクリート造の堰堤であつて、その操作は「柳瀬堰堤操作暫定要領」及び「同要領第四条及び第十二条の別に定める事項」によつて従来の実績と綿密な計算の下に合理的に操作方法が定められている。

洪水の予想される場合の堰堤操作要領は、(一)灌漑と発電のため貯水池内の水位を常時満水面標高二百八十九、五米に保つているのを計画洪水量毎秒千七百立方米を予想しこれを見越して洪水調節機能を果すため、予め毎秒千五百立方米まで、水位を軽減し、なお残る五百万屯の水位を水門の操作によつて貯水池内の水位を二百八十六、五米まで下げ、(二)右五百万屯の水を一挙に放流するときは下流に段波を生じ不慮の災害を予想されるから、放水量を除々に増加して予備放流を行い災害を防ぎ、計画洪水量に達する水量の流入期まで貯水池内の水位を低下きせ、(三)洪水調節機能を十分発揮させながら、灌漑と発電に対する無駄な放流を最少限に防止するよう周到な計画に基いている。

第十二号及び第十五号台風当時、本堰堤操作は前記柳瀬堰堤操作暫定要領第十二条、第十四条に則り操作しているから、原告等主張の如き、故意又は過失はなく、むしろこの操作によつて洪水を最良の状態に於て防止調節したものである。即ち、

(一)第十二号台風時、原告等が九月十四日午前二時頃一挙に堰堤水門を全部開放したというのは叙上の操作を知らざるも甚しく、担当者は放送局の台風関係情報十八号、及び吉野川洪水予報連絡会の気象情報十号を全部とらえ、洪水警報七号に基き右操作要領の如く、予備放流を行い、十二日正午現在平常時水位二百八十九米であつたのを、十三日十三時に最大毎秒三百十六立方米に、同日十九時に最低二百八十三、五二米に下げて、原告等主張の右二十四時には降雨流入量の異常に増加して殺到して流入する最高毎秒千六百十五立方米の洪水量に対し、放水量を毎秒千百四十立方米に抑え、実に自然流水毎秒四百七十五立方米を調節して、最も堰堤の効果を十分に発揮していたものである。

従つて、柳瀬堰堤上下流の被害はその操作に起因するものではない。(一)富郷アバは流入水量の増加と上流木材の流入のため十三日九時頃に人為的に解放し、金砂境アバは同日午后貯水池水位低下と流入量の増加のため十六時真中より切断し、平野山アバ及び柳瀬上アバは十二号台風による損傷はなく、柳瀬下アバは現存し、これに支えられて下流流失はしなかつた。(二)銅山川と支川中之川が合流する地点の用材等の流失被害は、暴風警報下に放置したためであり、現場の浸水は銅山川本流の水によるものでなく、支川中之川の水量が加わつて浸水したものであり、(三)銅山川と吉野川との合流では道路敷下部分が若千浸水したに過ぎず、直接には吉野川本川筋の逆流した水量によるものであつて、銅山川の水勢によるものではない。

原告山口平八は浸水被害を受けた事実はない。

(二)第十五号台風時、原告等が一の雨量に対し一の雨量を開放すべきで、それ以上の開放をしたから過失があるとの主張は当らない。

即ち、放送局の台風関係情報十号及び吉野川洪水予報連絡会の台風暴風雨警報六号を全部とらえ、二十五日十三時八、四粍、十四時十一、三粍の時間雨量があり、柳瀬地点の今後相当の降雨量が予想されたので、予備放流を同日十九時から二十六日二十四時まで操作し二十六日五時三十分には最低二百八十五、一六八米に下げ、同時刻から流入量が急激に増加し放水量を上廻り、同日七時には最大流入量毎秒千二百五十五立方米に及んだので、同時刻の放流量を毎秒九百十立方米に抑え、実に自然洪水毎秒三百五十四立方米を調節して、最も堰堤の効果を十分に発揮していたものである。

従つて、原告主張の被害は堰堤操作に関連するものではなく、十五号台風の降雨量のほか、強風に起因するものである。平野山は平均十三米余の風速のため岩盤が崩壊したことにより、柳瀬上アバは雑木が抜けたことにより、また、柳瀬下アバは現存する。要するに若干木材が流れていた事実はあるが、原告等主張の如き木材の流失はない。

以上の如く第十二号及び第十五号台風により被害を最少に止めたことはあつても、堰堤操作に因つて損害を与えたとの原因もなくまた増大させたこともない。よつて担当者に故意又は過失のあつたことを原因とする原告等の本訴請求は失当であると陳述した。

立証〈省略〉

理由

銅山川柳瀬堰堤が、(一)治水のため吉野川河川統制計画の一部として、計画洪水量の調節をして、下流の洪水を防止すること、(二)灌漑用として愛媛県三島市及びその附近の既存田の灌漑用水の補、給を行うこと、(三)発電により毎時五千九百万キロワットの電力を発生させることとの三個の目的を持つ多目的堰堤であつて、第十二号及び第十五号台風当時は単に事実上被告国が管理していたが、昭和二十九年十月一日以降名実ともに被告が管理していること、右二度に亘る台風時に同堰堤の水門を開閉したこと、及び原告等の主張する同年十月六日頃建設省中国、四国建設局に解決方を催告した書面を到達せしめたのに対し、同月六日附で調査中との返信を以て回答されたことは当事者間に争がない。

先づ原告等の民法上の不法行為に基く損害賠償の請求の当否につき判断する。

証人立川耕平の証言によると銅山川柳瀬堰堤は昭和二十九年九月頃は被告国が管理するものであるところ、成立に争がない甲第十四号証乙第六号証乙第七号証によると、柳瀬堰堤の操作規定第十二条第十四条及び同要領の別に定める事項では、洪水量が毎秒千百立方米を超えることが予想される場合は予備放流を行い、低水位を二百八十六、五米にし、開扉三十分前までに吉野川工事々務所と銅山川下流関係方面に適宜の方法を以て警報し、且つ開扉五分前にサイレンを吹鳴し附近一般に警報し、ゲートの操作は特に慎重を期し、操作後のゲートの状況を確認し、予備電源使用及び手動による場合のほか、原則としてゲートは四門同時に操作し、右下流方面への警報に特に留意し、ゲートの開き始めは一時に毎秒十立方米を超えず、且つ流量は二時間後毎秒六百立方米にすること、洪水量の変化に応じてできるだけ小刻みに行い、下流水位を激変させないよう努力し降雨が少なくなる場合は直ちに放流量を減少、又は中止して貯水位の回復に努めることを基準として操作されることになつている。

(一)、先づ第十二号台風当時につき審究すると、成立に争がない乙第八号証同第九号証同第二十一号証同第二十七号証及び証人藤原賢の証言により真正に成立したものと認められる乙第十号証の一、二、証人岩田務の証言により真正に成立したものと認められる乙第十二号証の一、二証人渡辺晃成の証言により真正に成立したものと認められる乙第十三号証の三並びに証人川人貞彦、渡辺晃成、森岡君平、立川耕平の各証言、及び証人高橋幸八、村上稔、高橋重光、尾形新一、下西千老の各証言の一部を綜合すると、前記台風は東中予地区の最大風速二十五米の猛烈な台風で、山間部の雨量は非常に多くなる見込で、吉野川の上流域では山間部三百乃至四百粍の雨量が予想され全体として相当雨量が多くなるので、吉野川の既存の最高記録に大巾に接近する出水となり各施設は危険視される状態にあり、下流各地域の水防態勢の強化が要望され事実相当長時間に亘つて、別子山の時間雨量は九月十二日二十二時より二十三時まで最高五十粍(総雨量四百二十八、六粍)の降雨が、また柳瀬では十三日二十四時頃毎時三十、一粍(総雨量百九十八粍)に昇る降雨があり、予備放流のため十二日十時五十分ゲート一個の開放、十三日十一時ゲート二個の開放により除々に増加操作し、全員徹夜勤務でサイレンの吹鳴、及び川口役場に通報したことも窺われ、十三日十九時頃堰堤最低水位を二百八十三、五二米に下げ次に来る増水に備え、同日二十四時現在の自然流入量は毎秒千六百十五立方米に達し、放流量を毎秒千百四十立方米に抑え以て堰堤水位を二百八十七、二米に保つたものであつて、多少放流量が操作規定に合致しなかつたこともあるが、実に自然流水毎秒四百七十五立方米を調節して最も堰堤の効果を発揮していたものであることを認定することができる。前記認定に反する証人高橋幸八、村上稔、高橋重光、尾形新一、下西千老の証言の一部、及び証人鈴木省三、森岡君平、藤田茂、橋口道明の各証言、並びに原告倉本、山本、中村の各本人尋問の結果は信用し難く、他に右認定を左右するに足る証拠がない。右認定によると、結局第十二号台風という暴風雨により異常な雨量と河川の増水を招いた自然力の作用たる台風による洪水であつて、幾多の支川を持つ銅山川の自然流入量に対し、人為的に可及的に災害を避けるよう努力され措置されたものであつて、前記の如き堰堤操作を行つた以上、かかる緊急事態につき当時通常なすべき注意を標準としても、相当の注意を怠つたゝめ損害が発生したものということはできず、不法行為に於ける違法性を欠き、むしろ一般経験則を以てしても、台風による洪水という天災のため不可抗力に基いて原告等の損害が発生したものというの外なく、ダム操作自体に起因するとの確証はない以上、かゝる天災という自然力を伴う不可抗力による損害発生につき因果関係を欠き、所詮原告等の請求は認容することができない。

(二)  次に第十五号台風当時につき審究すると、成立に争がない乙第十八号証同第十九号証、同第二十八号証同第二十九号証及び証人藤原賢の証言により真正に成立したものと認められる乙第十号証の三、証人岩田務の証言により真正に成立したものと認められる乙第十二号証の一、二、証人渡辺晃成の証言により真正に成立したものと認められる乙第十三号証の四並びに証人宮田隆行、鎌倉厳、川人貞彦、渡辺晃成、深川寿夫、立川耕平の各証言を綜合すると、前記台風は強風を伴う最大風速二十米乃至二十五米以上の暴風雨で県境山間部は雨が強く、吉野川全般に四百粍位の雨量が予想され、低地の浸水と河川の増水に警戒が要望されていたが、別子山の時間雨量は九月二十五日十二時より十三時まで最高四十八粍(総雨量三百七十五粍)の降雨が、また柳瀬では二十五日五時より六時まで毎時二十五、四粍(総雨量百七十七、五乃至二百七、五粍)に昇る降雨があり、予備放流のため二十五日七時十五分ゲート一個の開放、二十五日十四時五分ゲート二個の開放により除々に増加操作し、所長の指示と責任の下に全員徹夜勤務を以てこれに当り、サイレンを吹鳴し、二十六日六時前堰堤最低水位二百八十五、六八米に下げ、次に来る増水に備え、同日六時より七時現在の自然流入量は毎秒千二百五十五立方米に達し、放流量を毎秒九百一立方米に抑え、以て堰堤水位を二百八十九、九米に保つたものであつて、多少操作規定に合致しなかつたこともあるが、実に自然流水毎秒三百五十四立方米を調節して最も堰堤の効果を発揮していたものであることを認定することができる。前記認定に反する叙上(一)同旨の原告等申請の各証人の供述及び原告本人尋問の各結果は措信し難く、他に右認定を覆すに足る証拠がない。右認定によると第十五号台風は強風を伴い河川の自然流入量の多い自然力の作用たる台風による洪水であつて、人為的に可及的に災害を避けるよう努力され措置されたものであつて、前記の如く堰堤操作を行つた以上、かゝる緊急事態につき当時通常なすべき注意を標準としても、相当の注意を怠つたゝめ損害が発生したものということはできず、不法行為に於ける違法性を欠き、むしろ一般経験則を以つてしても、台風による強風と洪水のため不可抗力に基いて原告等の損害が発生したものというの外なく、ダム操作自体に起因するとの確証はない以上、前記一(一)と同様、かゝる自然力に対する不可抗力による損害発生につき因果関係を欠き、所詮原告等の請求は認容することができない。

次に原告等は第十二号及び第十五号台風による被害につき国家賠償法第二条の営造物の設置又は管理に瑕疵があつたことを原因とする損害賠償を請求するので判断すると、成立に争がない乙第一号証乃至同第五号証及び証人尾形新一、森岡君平、川人貞彦、渡辺晃成、立川耕平の各証言、並びに第一回検証の結果を綜合すると、本堰堤設置以前にも台風による洪水のあつたことが窺われるところ、右堰堤は洪水調節を一目的として、時に遭遇する強雨出水を予想考慮して、可及的に水害を防止する計画の下に人為的堰堤として設置築造され、工事施行には長期間を以て最善を尽したものであつて、その目的規模、投光器、警報機その他の機械施設からするも本堰堤の設置自体に通常有すべき性状を欠くとはいえないし、またその堰堤操作状況及び人員、勤務状況を以てしても、本堰堤の管理方法に瑕疵があつたとも到底認めることができない。これに反する原告等の主張はその全立証を以ても認めることができない。して見ると、結局営造物の建造維持管理行為が不完全で通常有する安全性を欠くものとはいえないから、その瑕疵のあつたことを前提とする国家賠償法第二条の請求はこの点に於て失当であつて、原告等の該請求は理由がない。

叙上の如くであるから、本訴損害賠償の請求は、原因関係において失当であつて、爾余の判断をまつまでもなく、原告等の各請求は理由がないことに帰するから、本訴請求はいずれも棄却することゝし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条第九十三条本文を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 横田吟 大西信雄 清水嘉明)

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